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4. ABAQUS/Standard概要

本章は、ABAQUS/Standardについて記述していますが、ABAQUS/Explicitも基本的な入力の規約は同じですので参考にして下さい。
Abaqus/Standardは、幅広い種類の線形と非線形の問題を解くことができる汎用解析プロダクトで、構成部品の静的、動的、熱、電気の応答を求めることができます。
Abaqus/Standardは、各計算"インクリメント"で連立方程式を陰的に解きます。
一方、Abaqus/Explicitは、各インクリメントで、連立方程式を解かずに(あるいは全体剛性マトリックスの作成さえせずに)、小さい時間増分で解を時間方向に前進させます.

4.1. 特徴

  • 異なったプロシージャ、要素タイプ、材料を組み合わせることにより、様々なモデルを作成できます。
  • 線形解析ステップと非線形ステップとは、部分的な違いがあります。
  • データフォーマットは、フリーフォーマットで入力します。固定フォーマットは使用できなくなりました。
  • データの定義はモデル定義のためのデータと履歴定義のためのデータの2種類に分かれています。
  • 直交座標・材料座標系等の、種々の座標系が使用できます。
  • 節点もしくは要素で構成される集合(set)を使用してグループ化することによって、まとめてデータが定義できます。進んで使用することをお勧めします。
  • 解析は履歴データに従って進めて行きます。つまり、解析方法の指定は履歴データで行います。
  • 要素タイプ、材料の機械的構成挙動をユーザが独自に定義できます。但し、取り扱いには十分留意して下さい。
  • 節点と要素に対してのみ、自動作成機能・複写機能などが使用できます。簡単な形状を作成する時には便利です。
  • FORTRAN90言語で記述するユーザサブルーチンを使用して、データが定義できます。
  • 解析に不必要な節点(どの要素にも用いられていない節点)は、自動的に削除されます。

4.2. 解析タイプ

4.2.1. 静的応力解析

慣性力を無視できる場合に用います。以下の解析が可能です。

  • 線形解析
  • 非線形解析

材料非線形(塑性など)
境界非線形(接触問題など)
幾何学的非線形(大変形・初期荷重など)

4.2.2. 熱伝導解析

熱伝導、強制対流、境界輻射、熱伝達および空洞輻射を含む解析に用います。 以下の解析が可能です。

  • 定常熱伝導解析
  • 非定常熱伝導解析
  • 熱応力解析および熱-応力連成解析

4.2.3. 動的解析

運動方程式を直接積分することにより、線形及び非線形現象の時刻歴応答が得られます。 以下の解析が可能です。

  • 線形時刻歴解析
  • 非線形時刻歴解析
  • 定常調和応答解析

4.2.4. 固有振動数の抽出

あらゆる初期応力を考慮した構造物の固有値が抽出できます。

4.2.5. 線形動解析

モード重ね合わせ法(モーダル法)を用いた解析を行います。 以下の解析が可能です。

  • 応答スペクトル解析
  • 時刻歴解析
  • 定常応答解析
  • 不規則応答解析

4.2.6. 断熱解析

変形により熱が発生し、かつ現象が短時間で生じる為にこの熱が材料内を加算できないような場合に用います。

4.2.7. 地圧解析

地盤の定常平衡問題での初期状態を適切に定義することができます。

4.2.8. 間隙水の拡散と応力の連成解析

間隙水の拡散/応力解析問題を不飽和あるいは飽和浸透流を含めた解析が行えます(*SO-LISプロシージャを使用)。

4.2.9. 質量拡散解析

金属内の水素拡散のように、ある物質内を別の物質が定常的及び非定常的に拡散する様な問題が扱えます。

4.2.10. 準静的解析(VISCO解析)

材料挙動が時問に依存する場合(クリープ、スウェリング、粘弾性)の過渡応答ステップを使用して行います。 歪み速度の効果は考慮されますが慣性効果は無視されます。

4.2.11. 座屈固有値の予測

座屈荷重値を予測する為に用います。

4.2.12. 温度と電位の連成解析

電気伝導率が温度に依存する場合の、ジュール発熱をモデル化する為に用います。

4.2.13. 音響解析および音響-構造連成解析

微小変形を受ける音響媒体をモデル化する為の要素と、これらの要素を構造モデルに連成する為のインターフェース要素が用意されています。 連成解析は、ほとんどの線形解析プロシージャで可能です。

4.2.14. 電圧解析

完全に連成した電圧解析は、1次元、2次元、3次元の連続体に対して可能です。

4.2.15. 定常輸送解析

さらに、解析手法として以下の機能などがあります。
領域積分による破壊力学的評価:亀裂先端回りを評価することができます。 Ct積分、J積分が可能です。

4.2.16. 亀裂進展解析

初期には固着していたものの解析の進行にともない剥離する(またはしない)様な面の定義が可能です。

4.2.17. 要素の削除と挿入

解析の進行にともない、要素の削除と挿入が行えます。

4.2.18. 部分構造/スーパー要素機能

線形と非線形問題に用いることができます。

4.2.19. サブモデリング機能

初期の全体モデルから得られた解をもとにして、一部分をより細かく分割して詳細な解析をすることができます。

4.2.20. 陽解法と陰解法の連成解析

4.3. 要素ライブラリ

主な要素ライブラリについては下記のとおりです。

4.3.1. ソリッド(連続体)

1次元、2次元、3次元での1次(線形)要素と2次要素

4.3.2. シェル

軸対称と一般のシェル形状の両方を含みます。

4.3.3. 膜

膜としての強度は持っているが、曲げ剛性は持っていない空間中の薄い膜を表す為に使用します。

4.3.4. 梁(はり)

曲げと伸びの両方を考慮し、3次元の梁は断面のそりを考慮します。

4.3.5. 特殊な要素

集中質量・回転慣性・スプリング・ダッシュポット・制御鎖エルボ・管支持・ラインスプリング・フレキジブルジョント・静水圧流体・燃料集合体などが扱えます。

4.3.6. ユーザ定義要素

ユーザルーチンを使用して定義することができます。

4.3.7. 特殊な接触要素

"contactpair"手法では取り扱えない接触問題に使用します。
また、要素によって解かれる場の方程式は、以下のとおりです。

  • 変位(応力):典型的な力学変形問題の解析
  • 温度:単独あるいは変位場との完全連成解析
  • 音圧:単独あるいは内部振動と水中衝撃(USA)を含んだ構造物との安全連成解析
  • 間隙流体と変位の連成:地盤あるいは浸潤の解析
  • 圧電:電位と変位の連成解析
  • ジュール発熱:熱と電気(温度と変位)の連成解析

4.4. 材料ライブラリ

主な材料ライブラリについては下記のとおりです。

4.4.1. 一般的な特性

減衰・密度・熱膨張係数

4.4.2. 熱的特性

熱伝導率・潜熱・比熱

4.4.3. 間隙流特性

透水率・多孔質媒体の特性(固体と流体の体積弾性率)

4.4.4. 弾性モデル

線形弾性・多孔質弾性・亜弾性・超弾性・超弾性フォーム・無圧縮または無引張弾性・粘弾性

4.4.5. 塑性モデル

拡張Drucker-Pragerモデル・Drucker-Prager/Capモデル・金属塑性・極限(粘土)塑性モデル・可壊発泡塑性・多孔質塑性・ジョイント材料モデル・速度依存性降伏・粘塑性(クリープおよびスェリング)・異方性降伏・ORNLモデル・コンクリートモデル・全塑性モデル

4.4.6. 他の力学的特性

音響媒体・圧電挙動

4.4.7. ユーザ定義材料

ユーザサブルーチンを用いて定義することができます

4.4.8. 面特性

接触面特性・摩擦・連成場のインタフェース

4.5. データ上の注意

.datは出力結果ファイルです(NASTRANと混同しないで下さい)。入力ファイルの拡張子は、.inpとなります。

4.5.1. 座標系について

ABAQUSの全体座標系は、右手系の直交デカルト座標系です。しかし、以下の場合には、別の座標系が使用できます。

  • 入力座標系:節点座標の入力時(NODEあるいはSYSTEMオプション)に使用できます。
  • 変位座標系:節点変数(変位、速度等)の出力時、要素変数(応力、歪み)、
  • 集中荷重あるいは境界条件の指定時(*TRANSFORMオプション)に使用できます。
  • 材料座標系:材料あるいはジョイントの指定時(*ORIENTATIONオプション)に使用できます。

4.5.2. 単位系について

ABAQUSには、固有の単位系はありません。整合がとれた単位系を用いる必要があります。

4.5.3. 要素について

デフォルトの要素座標系は、全体座標系です。

  • 各要素(例えば、梁要素)でも、解析目的・構成節点・定式化等でさまざまな要素タイプがあるので、要素タイプの選択は十分に検討して下さい。
  • 伝熱解析と熱応力解析を行う時は、伝熱解析用要素と応力解析用要素が別々に用意されています。
  • 1/4節点法(Barsoumの特異要素:J積分、亀裂進展問題などに使用)を使用する方は、使用可能な要素を選択する必要があるのでモデル化も合わせて十分注意して下さい。
  • 自由度の番号や荷重の与え方は、使用する要素タイプ毎に異なりますので、要素ライブラリを良く読んで下さい。
  • 要素内は数値積分されるので、出力は積分点で出力されます。また、積分点の座標も出力することができます。

4.6. 出力要求(プリント出力、リスタート結果ファイルおよび結果ファイル)について

プリント出力ファイル(.dat)と結果ファイル(.fil)とリスタートファイル(.res)およびデータベースファイル(.odb)に出力することができ、それぞれ指定オプションが異なります。

  • *RESTARTWRITEオプションを指定するとリスタートファイルに出力されます。
  • FILEオプション(例えば*ELFILE)を指定すると、結果ファイル(.fil)へ出力されます。指定がないと、何も出力されません。
  • PRINTオプションを指定すると、プリント出力ファイル(.dat)ヘデフォルト以外の内容を出力することができます。集合名とFREQパラメータを使用することで、出力量を制限することができます(例えば、*ELPRINT,FREQ=0,*NODEPRINT,FREQ=0)。
  • 計算ステップが進むと、リスタートファイルは膨大になるので十分注意して下さい(*RESTARTオプションで出力制御できます)。プリント出力ファイルや結果ファイルも同様です。

4.6.1. データベースファイル出力要求

データベースファイルは、ABAQUS/CAE(Viewer)を使用する時に必要になります。

  • *OUTPUT,FIELDもしくは*OUTPUT,HISTORYが指定された場合出力されます。指定がないとなにも出力されません。計算ステップが進むと、ファイルサイズが膨大になるので、出力は制御して下さい。
  • ABAQUSでは、線形解析のプロシージャと非線形解析のプロシージャで、荷重の定義方法が異なり、時間の測度が異なり、結果の解釈方法が異なります。
  • ABAQUSでは、ステップ(step)時問と全(total)時間の2種類の時間を使用しています。
  • 非線形性の強い問題を扱う時は、AnalysisUser’sManualの「AnalysisSolutionandControl」は必ず読んで下さい。
  • ABAQUSのデフォルト・ソルバーは、高速スパース法です。テーマによってはウェーブフロント法の方が効率的な場合があるので、AnalysisUser'Manualを読んでソルバーを選択するようにして下さい。