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6. ABAQUS/Explicit概要

ABAQUS/Explicitは、有限要素法による陽解法動解析プログラムです。 陽解法は、動解析の手法で、もともとは自動車の衝突問題に代表される様な、高速衝突問題をモデル化する為に開発されたものです。 特に接触/摩擦が多く存在する不連続な問題の解析にすぐれています。 また、準静解析(速度の遅い問題として取り扱う)も行なうことができますが、工学的判断が必要となります。 ABAQUS/Standard(陰解法)とは異なり、小さな時間増分を数多く用いて解析します。 マニュアルを精読して理論について良く調べておく必要があります。また、研究に関連する文献なども良く調べて利用して下さい。

入力のシンタックスと規則はABAQUS/Standardと同じです。 本書もそれを踏まえて、ABAQUS/Standardと重複する箇所は省略して記述しています。 ABAQUS/Explicitは、ABAQUS/Standardと違って計算結果はプリント・ファイルには書き出されません。 ABAQUS/CAEのViewer機能を使用してグラフィカルに見るか、自分で結果ファイルから数値を取り出すプログラムを作成する必要があります。 本章及び次章では、これらについてふれますが、ABAQUS/Explicitのファイルの流れを良く理解しておく必要があります。

6.1. 特徴

  • 有限要素法のよる陽解法動解析プログラムです。
  • 入力データのシンタックスと規則はABAQUS/Standardと同じです。
  • 陽解法による動解析プロシージャは、大規模なモデルや非常に不連続な現象の解析に対して効率的です。
  • 全ての解析に対して、整合のとれた大変形理論を用いています。
  • 非常に一般的な接触条件を定義することができます。
  • 解析実行中でもポスト処理が行なえます。

6.2. 解析タイプ

以下に示す2つのプロシージャがあります。

  • 陽解法による動解析

時刻歴応答を得る為に、運動方程式に対して陽的時間積分を用います。

  • 焼き戻し(almeal)

全ての応力、歪み、状態変数、それに速度を零に再設定するプロシージャです。

6.3. 要素ライブラリ

主な要素ライブラリ

  • ソリッド(連続体):2次元、軸対称、3次元での1次(線形)補間要素が使用できます。
  • シェル:軸対称と一般のシェル形状の両方を含みます。
  • 膜:膜としての強度は持っているが、曲げ剛性は持っていない空間中の薄い膜を表す為に使用します。
  • 梁(はり):曲げと伸びの両方を考慮します。
  • トラス:2次元、3次元において、軸力のみを伝達します。
  • 特殊な要素:集中質量・回転慣性・スプリング・ダッシュポット・静水圧流体が扱えます。
  • 剛体要素:2次元、3次元において、剛体をモデル化する為に使用します。

6.4. 材料ライブラリ

主な材料ライブラリ

  • 一般的な特性:減衰・密度
  • 熱的特性:比熱
  • 弾性モデル:線形弾性・超弾性・超弾性フォーム・粘弾性
  • 塑性モデル:金属塑性・多孔質塑性モデル・拡張Drucker-Pragerモデル・Drucker-Prager/Capモデル・可壊発泡塑性・速度依存性降伏・異方性降伏
  • ユーザ定義材料:ユーザサブルーチンを用いて定義することができます。

6.5. データ上の注意

6.5.1. ABAQUS/Explicitのファイルについて

  • ファイルの内容がABAQUS/Standardとは異なります。
  • (.dat)ファイルには、計算結果は書き込まれません。
  • 結果ファイルおよび選択結果ファイルについて

    • *FILEオプションおよび*HISTORYオプションを指定して、出力したい変数を指定すると、選択結果ファイル(.sel)に書き込まれます。
    • *HISTORYオプションで指定した変数は、結果ファイルにはコンバートできません。
    • *FILEOUTPUT、*HISTORYOUTPUTオプションは、1つのステップで1回だけしか指定できません。
    • ステータス・ファイル(.sta)とは違うので注意して下さい。
  • データベースファイルについて

    • データベースファイルは、ABAQUS/CAEのViewer機能を使用する時に必要になります。
    • *OUTPUT、FIELDおよび*OUTPUT、HISTORYが指定された場合出力されます。指定がないと、何も出力されません。
    • 計算ステップが進むと、ファイルサイズが膨大になるので、出力は制御して下さい。
  • 計算ステップが進むと、ファイルが膨大になりますので必要な出力項目を注意して選ばないと、ファイルが非常に大きくなる可能性があります。

  • 結果の出力は、出力時刻に到達したインクリメントの最終時点で行なわれれるので、出力間隔は必ずしも同じにはなりません。
  • 正確な時間問隔で出力したい場合には、*FILEOUTPUTオプション、*HISTORYOUTPUTオプション、*RESTARTオプションなどで、TIMEMARKS=YESを指定して下さい。

6.5.2. Δtと要素寸法について

  • 時間増分の大きさは、最小要素の寸法に依存します(要素の寸法が安定時間を決定します)。
  • モデルのあまり重要でない部分によって決定されないように注意する必要があります。
  • 極端に要素寸法が小さい場合には、エラーが出力され解析できない場合があります。

6.5.3. 時間増分と安定性について

  • 陽解法では、安定限界により決められた小さい時間増分を常に用いる必要があります。
    • 陽解法では、中央差分オペレータが条件付き安定である為に、多数の小さな増分を用いて時間積分を行なっています。これは、時間増分が臨界あるいは安定時間増分よりも小さい場合に意味があることを示しています。
    • 安定限界は、系の最高次の固有円振動数ωmax\omega_{\max}と、このモードに関する臨界減衰比ξ\xiにより与えられます。

Δt2ωmax((1+ξ2)ξ) \Delta t\geqslant\frac{2}{\omega_{\max}}\left( \sqrt{(1+\xi^2})-\xi \right)

要素の最高次のモードに対する減衰比は、下式で与えられます。

ξ=b1b22LeCdmin(0,ϵvol) \xi = b_1 - b_2^2 \cdot \frac{L_e}{C_d}\min(0, \epsilon_{\mathrm{vol}})

b1b_1(default=0.06), b2b_2(default=1.2): 減衰係数(材料定数ではない)

ϵvol\epsilon_{vol}:体積歪み速度

減衰は、安定時間増分を減少させます。減衰には、以下の2タイプが使用できます。

  • タイプ1.体積粘性減衰(BulkViscosityDamping)(履歴定義データで指定)

体積粘性には、線形体積粘性と2次体積粘性の2つがあります。

p1=b1ρcdLeϵvol p_1 = b_1 \cdot \rho \cdot c_d \cdot L_e \cdot \epsilon_{\mathrm{vol}}

1*BULKVISCOSITYオプションρ:現時点での材料密度cdc_d:現時点での体積波の速度Le:_e:要素特性長さ
線形体積粘性は、要素の細大周波数での振動(ringing)を静める為に含まれています。
全ての連続体要素(平面応力は除く)は、下式のような2次体積粘性圧力を含んでいます。

p2=ρ(b1Le)2ϵvolmin(0,ϵvol) p_2=\rho(b_1L_e)^2|\epsilon_{\mathrm{vol}}|\min(0,\epsilon_{\mathrm{vol}})

2次体積粘性は、体積歪み速度が圧縮の場合にのみ適用されます。

  • タイプ2.材料減衰(MaterialDamping)(モデル定義データで指定)

材料減衰は、粘性によるエネルギーの散逸源を持っていない材料に対して用意されています。
ABAQUS/Explicitは、質量比例減衰と剛性比例減衰が扱えます。
レーリー(Rayleigh)減衰係数(αR\alpha_R)は・質量行列に比例する減衰を定義します。
剛性比例減衰は、減衰応力(dampingstress)σd\sigma_dを生成します。下式を参照して下さい。
低次の振動を減衰させる為には、一般に質量比例減衰を使用します(質量比例減衰は、安定時間増分に対して殆んど影響を与えない)。

σd=βRDelϵvol \sigma_d = \beta_R D^{el} \epsilon_{\mathrm{vol}}

βR\beta_R:減衰定数, DelD^{el}:材料の弾性剛性, ϵvol\epsilon_{\mathrm{vol}}:全歪み速度
剛性比例減衰は、-般に高次の振動を制御する為に使用します。この減衰は、安定時間増分を劇的に減少させる可能性があります。

  • ABAQUS/Explicitは、安定時間増分を決める為に、解析の間じゅう有限要素モデルをモニターしています。

    • 全体アルゴリズムは、モデルの最大周波数を予測します。
    • 予測値は継続的に更新されます。
    • 安定時間増分が急激に減少した場合は、解析を妥当な時間内で完了することができないというエラーメッセージを出力して、解析をストップします。これは、通常、要素が変形しすぎたことを意味します。
  • 安定時間の概念を1次元問題で考えることにします。

    • 安定時間増分は、体積波(縦波:dilatatinalwave)がモデルを構成している各要素の中を伝播するのに要する時間の最小値と考えることができます。

    体積波の速度cdc_dは、下式で表せます。

cd=Eρ c_d = \sqrt{\frac{E}{\rho}}

1次元の場合、Eはヤング率、ρは材料密度。

安定時間増分は、下式で表せます。

Δt=Le/cd \Delta t = L^e/c_d

LeL^eは要素長さ。

  • LeL^eを小さくするか、あるいはcdc_dを大きくすると、安定時間増分は小さくなります。

要素の寸法を小さくすると、LeL_eは小さくなる。
材料の剛性を大きくすると、cdc_dは大きくなる。
材料の圧縮性を減じると、cdc_dは大きくなる。
材料の密度を小さくすると、cdc_dは大きくなる。

6.5.4. 拘束条件における節点座標系の設定

拘束条件における節点座標系の設定については(*TRANSFORMオプション)全体座標系を仮定している為、拘束条件(*MPC、*EQUATIONオプション)では、*TRANSFORMオプションは無視されます(ABAQUS/Standardとは異なる)。

6.5.5. 準静解析(速度の遅い問題)

準静解析を行なう時は、特別な考慮が必要になります。

  • 本来の継続時間を用いてプロセスをモデル化するのは、計算の量からいって非現実的です。
  • 目標は、慣性力が影響を及ぼさない最短の解析時間を用いてプロセスをモデル化することです。
  • 解を経済的に得るには、シミュレーションにおけるプロセスの速度を人為的に上げる必要があります。
  • プロセスの速度を上げると、静的な釣合い状態は、動的な釣合いに移行してしまいます(慣性力がより支配的になる)。
  • 運動エネルギーが大きくならないように注意して下さい(大きくなった場合は、速度を遅くする等)。

6.5.6. 陽解法について

  • 陽解法プロシージャは、対角の質量行列を使用します。
  • 陽解法プロシージャは、陰解法(ABAQUS/Standard)のように、材料の接線剛性行列を解かないので、収束計算や誤差の許容値も必要ありません。
  • 陽解法プロシージャは、要素剛性行列は解きません。