4. 入力データ作成の方法¶
4.1. NASTRANデータの特徴¶
NASTRANの入力データの特徴と構成を示します。
- 入力データはテキストファイルで作成する
- データが別のデータを参照している場合が多く、参照されたデータも別のデータを参照している場合がある
- 内容別のセクションに分けられている
- セクションは順番が決められている
- データカードはほとんどの場合、順序が自由である
- 種々の座標系がある(直交座標系、円筒座標系、球面座標系)
- データフォーマットが数種類ある(小フィールド書式、大フィールド書式、フリーフィールド書式)
データはかなり自由に設定できる反面、画一性が無くなりがちです。 - NASTRANデータの構成
NASTRANの入力データには下記の5つのセクションがあります。 - NASTRAN statements
- File Management section
- Executive Control section(EC)
- Case Control section(CC)
- Bulk Data section(BD)
NASTRANの入力データの構成は、内容別のセクションに分けられていて、 セクションは順番が決められています。 次頁に各セクションごとの入力項目を示します。 入力項目に対応するカードを記述することでデータが作成できますので、 データ作成手順の一つとして参考にして下さい。 - セクションごとの入力項目
- NASTRAN statements(省略可)
実行時のパラメータをコントロールします。 - File Management section(省略可)
データベースのサイズと割当をコントロールします。 - Executive Control section(EC)
実行条件、解析機能、DMAP操作を指定します。- 実行打ち切り時間の指定
- 診断結果出力の指定
- 解析機能の指定
- DMAP操作 このセクションの最後にCENDを指定します。
- Case Control section(CC)
計算条件の選択、タイトル、結果出力等の設定を行ないます。サブケース毎に計算条件を選択できます。 選択は、Bulk Data sectionで定義されたデータから行ないます。- タイトルの設定
- 問題制御指定の選択
- 荷重の選択
- 拘束、境界条件の選択
- 結果出力の設定
- NASPLOT用データ
- Bulk Data section(BD)
細かいデータは全てここで定義され、Case Control sectionで選択されます。 このセクションの最初にBEGIN BULKを指定します。- パラメータ
- 物性値データ
- 問題制御データ
- 荷重データ
- 拘束、境界条件のデータ
- 構造データ(節点、要素)
4.2. Executive Control section(EC)¶
例を示します。
ASSIGN OUTPUT2='ex1.op2',UNIT=12
ID NASTRAN,V707
TIME 10
SOL 101
CEND
通常に使用するカードは、以下の4枚です。
- ASSIGN OUTPUT2=’ex1.op2’,UNIT=12(任意)
NASTRANのポストプロセッサ(PATRAN)標準出力ファイル名(例では、ex1.op2)を指定します。 UNIT=12は固定。.xdbファイルのみを使用してポスト処理を行なう場合は指定不要。 PATRANで入力データを作成すると、1行目のように作成されます。 1行目を省略すると、 デフォルトでex1.op2で上書きモードで割り当てられます(V70.5は省略不可)。 ASSIGN OUTPUT2=’ex1.op2’、UNIT=12、STATUS=’UNKNOWN’としておくと、実行の度にop2ファイルが上書きされます。 (※ 正確には、ASSIGN 文は File Management Section です) - ID a,b (任意) ジョブ識別用で任意指定です(計算には影響を与えません)。 aとbは8文字以内のブランクを含まない英数字を入力します。
- TIME m (デフォルトm=1) 最大CPU使用時間(単位は分)を指定します。
- SOL n (必須) 解析機能を指定します。 このカードは必須で1枚のみ入力します。 nの番号は下記の番号表を御参照下さい。
番号 | 解析機能 |
---|---|
100 | ユーザDMAP作成時の前処理指定 |
101 | 線形静解析 |
101 | 定常熱伝導解析 |
103 | 振動固有値解析 |
105 | 座屈固有値解析 |
106 | 静的非線形解析 |
107 | 直接法複素固有値解析 |
108 | 直接法周波数応答解析 |
109 | 直接法過渡応答解析 |
110 | モーダル法複素固有値解析 |
111 | モーダル法周波数応答解析 |
112 | モーダル法過渡応答解析 |
114 | 周期対称法を用いた静解析 |
115 | 周期対称法を用いた振動固有値解析 |
118 | 周期対称法を用いた直接法周波数応答解析 |
129 | 非線形過渡応答解析 |
153 | 定常非線形熱伝導解析 |
159 | 非定常熱伝導解析 |
200 | 設計最適化 |
4.3. Case Control Section(CC)¶
下記に例を示します。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 |
|
- タイトル、サブタイトル、ラベル(1、2、4行目)
出力リストの各ページの先頭行から3行、TITLE、SUBTITLE、LABELの順に出力されます。 使用できる文字は英数字です(日本語は不可)。 省略した場合は空白行が出力されます。計算に影響は与えません。 - 解析ケース指定(3行目)
本例では、計算上は不要です。 PATRANでポスト処理をする為にのみ指定します。 - 問題制御
静解析では、問題制御のカードは使用する必要がありません。 座屈解析、固有値解析、周期対称法解析、動解析、周波数応答解析、ランダム応答解析、 過渡応答解析、非線形解析、感度解析、最適化解析等の解析を行う場合に必要です。 計算に必要な条件を選択、指定します。 下記に選択可能なカードの一部分を示します。
項目 | 説明 |
---|---|
METHOD | 実固有値抽出法 |
CMETHOD | 複素固有値抽出法 |
DYNRED | 動的縮退 |
TSTEP | 過渡応答時聞刻み |
IC | 過渡応答初期条件 |
SDAMPING | 構造減衰 |
FREQUENCY | 周波数応答に用いる周波数 |
TEMPERATURE | 初期温度、温度依存の材料特性 |
- 荷重(5行目)
荷重を選択します。 下記に選択可能なカードの一部分を示します。
項目 | 説明 |
---|---|
LOAD | 静的荷重 |
DLOAD | 動的荷重 |
TEMPERATURE | 温度荷重 |
- 拘束、境界条件(6行目)
下記のカードで拘束条件を選択することにより、境界条件を定義できます。
項目 | 説明 |
---|---|
MPC | 多点拘束 |
SPC | 単点拘束 |
- 結果出力(7~10行目)
結果の種類に出力範囲を設定することで出力指定になります。 下記に選択可能なカードの一部分を示します。
番号 | 解析機能 |
---|---|
DISPLACEMENT | 節点の変位、固有ベクトル |
VELOCITY | 節点の速度 |
ACCELERATION | 節点の加速度 |
VECTOR | 節点の固有ベクトル(DISPLACEMENTと同じ) |
ELFORCE | 要素力 |
STRESS | 要素の応力 |
SPCFORCES | 節点の拘束点反力 |
OLOAD | 静解析における節点の負荷荷重 |
GPFORCE | 節点力のつり合い |
THERMAL | 温度分布解析における節点の温度 |
OTIME | 過渡応答解析における出力の時間を指定 |
OFREQUENCY | 周波数応答解析における出力の周波数を指定 |
TSTEP | 問題制御と同一のデータだが時間刻み分の出力指定になる |
MODES | 固有値解析で、低次から何個の固有ベクトル、応力などを出力するか指定 |
出力範囲は、SETで定義して部分指定する、もしくはALLを指定して全てを選択する2種類の指定が行なえます。 例の"SET 1 =101, 103, 104 THRU 1O6"は、DISPLACEMENTで参照され、 節点番号の101,103,104~106を指定しています。 節点番号とはBulk Data section内にある、 節点データの識別番号(GID)です。
- NASPLOT用データ
6章(付録)に、NASPLOTを使用する場合の入力例が記載されています。
サブケースで計算したい時は、以下のように指定します。
TITLE = STATIC ANALYSIS SOL101
SUBTITLE = BAR BENDING
OUTPUT
SET 1 = 101, 103, 104 THRU 106
DISPLACEMENT = 1
STRESS = ALL
SUBCASE 1
LABEL = CASE 1 (GID:111 FORCE:1.0)
LOAD = 1000
SPC = 2000
SUBCASE 2
LABEL = CASE 2 (GID:111 FORCE:2.0)
LOAD = 1001
SPC = 2000
形状及び境界条件が同じで、荷重条件だけを数ケースサーベイしたい時などに便利です。 なお、SUBCASE1、SUBCASE2共通で、変位と応力が出力されます。
4.4. Bulk Data section(BD)¶
下記に例を示します。
BEGIN BULK
$
$ PARAMATER
$
PARAM, POST, -1
PARAM, AUTOSPC, YES
$
$ PROPERTY
$
PBAR, 1000, 1000, 9.0, 30.75, 30.75
MAT1, 1000, 1.96E+4, , 0.3, 8.01-10
$
$ LOAD
$
FORCE, 1000, 111, , 1.0, 1.0, 0.0, 0.0
$
$ BOUNDARY
$
SPC1, 2000, 123456, 101,
SPC1, 2000, 246, 102, THRU, 111
SPC1, 2000, 3, 102, THRU, 111
$
$ MODEL
$
GRID, 101, , 0.0, 0.0, 0.0
GRID, 102, , 0.0, 0.0, 50.0
GRID, 103, , 0.0, 0.0, 100.0
GRID, 104, , 0.0, 0.0, 150.0
GRID, 105, , 0.0, 0.0, 200.0
GRID, 106, , 0.0, 0.0, 250.0
GRID, 107, , 0.0, 0.0, 300.0
GRID, 108, , 0.0, 0.0, 350.0
GRID, 109, , 0.0, 0.0, 400.0
GRID, 110, , 0.0, 0.0, 450.0
GRID, 111, , 0.0, 0.0, 500.0
$
CBAR, 101, 1000, 101, 102, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 102, 1000, 102, 103, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 103, 1000, 103, 104, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 104, 1000, 104, 105, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 105, 1000, 105, 106, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 106, 1000, 106, 107, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 107, 1000, 107, 108, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 108, 1000, 108, 109, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 109, 1000, 109, 110, 0.0, 1.0, 0.0
CBAR, 110, 1000, 110, 111, 0.0, 1.0, 0.0
$
ENDDATA
例の2~4行の様に、先頭が"$"の行はコメントです。
この例の節点データ(例の25~35行)は座標系を定義するフィールドが空白ですので、 節点の座標は基本座標系で定義されます(基本座標系は3次元の直交座標系で NASTRANのデフォルト座標系になっています。
基本座標系のIDは0番なので座標系のIDを入力するフィールドに0か空白を設定した場合に適用されます)。
基本座標系で全てのデータを定義しても良いのですが、NASTRANでは局所的に座標系を定義できますので 構造に適した座標系を使用することによりデータ作成を効率的に行なうことができます。
座標系は直交座標系、円筒座標系、球面座標系が使え、 これらの座標系は基本座標系において定義します。
座標系定義は「クイックリファレンスガイド」のCORDカードの部分で説明されていますので御参照下さい。
-
データフォーマット
Bulk Data Sectionのカードは、下記の3フォーマットがあります。 -
小フィールド
- 大フィールド
- フリーフィールド
「MSC/NASTRAN入門マニュアル」の3章に説明がありますので御参照下さい。
よく使用されると思われる小フィールドのみ説明します。 - 小フィールドのフォーマット
- データの1行は、80カラム
- カードは、8カラムを1フィールドとする
- 1フィールドと10フィールドは必ず左寄せに入力する
良く使用するカードを下記に示します。 - パラメータ
項目 | 説明 |
---|---|
PARAM,POST,-1: | ポスト処理用データ(.op2)出力指定(*1) |
PARAM,POST,O: | ポスト処理用データ(.xdb)出力指定(*1) |
PARAM,AUTOSPC,YES: | 非結合自由度の拘束設定 |
(*)PATRANは、.op2と.xdbの両方をサポートしています。
.op2ファイルはPATRANでDBファイルを作成すれば削除できますが、 .xdbファイルはPATRAN起動の度に読み込む必要があります(.xdbファイルを保管しておく必要がある)。
.xdbファイルでなければポスト処理が行なえないような場合以外は使用を避けた方が良いでしょう。
詳細は「クイックリファレンスガイド」を御参照下さい。
- 物性値データ
項目 | 説明 |
---|---|
PBAR | 梁要素の形状特性 |
PBEAM | ビーム要素の形状特性 |
PSHELL | シェル要素の形状特性 |
PSOLID | ソリッド要素の形状特性 |
MAT1 | 材料特性(弾性) |
MATS1 | 材料特性(応力依存のテーブルを設定) |
- 問題制御データ
項目 | 説明 |
---|---|
EIGRL | 実固有値抽出データ定義(ランチョス法を使用) |
EIGC | 複素固有値抽出データ定義 |
DYNRED | 動的縮退用データ指定 |
TSTEP | 解法と出力に対する時間刻み幅を指定 |
- 荷重データ
項目 | 説明 |
---|---|
FORCE | 集中荷重 |
RFORCE | 遠心力荷重 |
GRAV | 加速度荷重 |
SPCD | 強制変位指定 |
PLOAD4 | 要素表面への圧力荷重 |
TEMP | 節点温度 |
- 拘束、境界条件のデータ
項目 | 説明 |
---|---|
SPC1 | 単点拘束 |
MPC | 多点拘束(2つ以上の自由度間の線形関係を定義) |
- 構造データ(節点、要素)
項目 | 説明 |
---|---|
GRID | 節点 |
SPOINT | スカラー点 |
CBAR | 一様断面梁要素 |
CBEAM | 汎用ビーム要素 |
CTRIA3 | 三角形シェル要素 |
CQUAD4 | 四角形シェル要素 |
CTETRA | 四面体ソリッド要素 |
CPENTA | 五面体ソリッド要素 |
CHEXA | 六面体ソリッド要素 |
CMASS2 | スカラー質量要素 |
CONM2 | 集中質量要素 |
CELAS2 | スカラーバネ要素 |
データはテキスト形式のファイルですので、vi等のテキストエディタで作成できます。 EC、CCの作成はテキストエディタでも作成できますが、BDの構造データはモデルが大きい場合や、 複雑な場合は作成するデータが増加しますので、テキストエディタでの作成は現実的ではありません。 このような場合には、自作の形状作成プログラム、データ作成を支援するアプリケーションの使用をお勧めします。 TSUBAMEでは、グラフィックプリ・ポストプロセッサPATRANが利用できますのでデータ作成、結果の可視化に御利用下さい。