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5. 分子動力学計算

分子動力学計算は以下の手順で行います。
Amberがインストールされているディレクトリはロードしたバージョンによって異なりますが、環境変数としてはすべて、$AMBERHOMEに設定されます。
このディレクトリ下の主なディレクトリを以下に示します(例ではamber/16up10)。

$AMBERHOME/内の主なディレクトリ

ディレクトリ 説明
dat/ Amberのデータベース
examples/ デモンストレーションデータ
doc/ マニュアルのファイル
bin/ Amber実行モジュール
test/ 各モジュールを実行するためのスクリプト例

Minimization、equilibration、Molecular Dynamicsは、binディレクトリ内にある sander というモジュールで行います。sander の使用方法は下のようになっています。

usage: sander  [-O|A] -i mdin -o mdout -p prmtop -c inpcrd -r restrt
                   [-ref refc -x mdcrd -v mdvel -e mden -frc mdfrc -idip inpdip -rdip rstdip -mdip mddip
                   -inf mdinfo -radii radii -y inptraj -amd amd.log -scaledMD scaledMD.log] -cph-data <file>

それぞれのファイルは以下の通りです。

sanderによる計算に必要なファイル

ファイル 説明
mdin min/mdにおけるコントロールデータ(input)。
mdout アウトプットファイル(output)。
prmtop 分子のトポロジー、パラメータの情報のデータ(input)。
inpcrd 初期構造と(オプションで)初期速度のデータ(input)。
restrt 最終の座標、速度、ボックスサイズ(for Constant Pressure)のデータ(output)。
refc ポジションを束縛するときのデータ(input)。
mdcrd 座標値のトラジェクトリファイル(output)。
mdvel 速度のトラジェクトリファイル(output)。
mden エネルギーのトラジェクトリファイル(output)。
mdinfo mdoutの一番最新の部分(output)。 \

インプットファイルのオプション指定は&cntrlから/の間に記載し、オプションが複数ある場合は「,」で区切り、&cntrl から/までの行は必ず行頭に空白を入れて下さい。
インプットファイルで使用できる全オプションの詳細説明はマニュアルを参照して下さい。

インプットファイルのオプション

オプション 説明
imin 0の場合はMD計算、1の場合はエネルギー極小化計算、5の場合は振動解析を行います。
nmropt 0の場合はNMRを考慮しない計算、1,2の場合はNMR計算を行います。
ntx 初期座標、速度および基本セルの読み込み方法の指定フラグです。1がデフォルトとなっており、初期座標のみが呼び出されます。MD計算のリスタートでは5を利用して、初期座標、速度を呼び出します。基本セルはntb>0のときに行われます。なお、irestが1のときのみ、速度が呼び出されます。
irest リスタートフラグです。0の場合はリスタートを行わず、1の場合は座標や速度をリスタートファイルから読み込みます。
ntpr mdoutおよびmdinfoを更新するステップ数、デフォルトは50
ntb 周期的境界条件の設定
cut カットオフ値、単位はオングストローム
maxcyc 極小化計算の最大サイクル数
ntr 0より大きい場合に位置束縛条件の設定を行います。デフォルトは0
ntc SHAKE法による分子固定設定、ntfと合わせて利用します。
ntf 力の評価設定、ntcと合わせて利用します。
tempi 初期温度設定
temp0 定常温度の設定
gamma_ln 衝突頻度因子
ntwx mdcrd
ntwr リスタートファイルを更新するステップ数、デフォルトはnstlim
nstlim MD計算のステップ数
pres0 初期圧力設定、デフォルトは1.0
taup 圧力緩和時間、デフォルトは1.0
ntt 定温シミュレーションの条件
dt トラジェクトリー計算における時間ステップ

5.1. Minimization(構造最適化)

5.1.1. Minimizationのインプットファイル

#mdin
#minimization (minimizationの実行)
&cntrl
imin = 1, maxcyc = 200,ntpr = 10,
/

以下の実行項目を実施する場合はmdinという名称で上記サンプルを保存してください。

5.1.2. Minimizationの実行(インタラクティブ実行)

qrshコマンドで計算ノードにログイン後に以下のコマンドを実行してください。
*サンプルでは最小化サイクルの上限までまわるため、最小化計算は完了しません。
参考エネルギー極小化するためには14223回のステップが必要となります。

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_pol/* ./
$ ls
inpcrd  inpdip  mdin  prmtop
$ sander -i mdin -o mdout -p prmtop -c inpcrd
$ ls
inpcrd  inpdip  mdin  mdinfo  mdout  prmtop  restrt

並列計算を行う場合は下記コマンドを実行ください。
なお、サンプルは28並列計算時に5分以内で終了します。

$ mpirun -np [並列数] sander.MPI -O -i mdin -o mdoutp -p prmtop -c inpcrd

計算の詳細を確認する場合はmdoutファイル、概要を確認する場合はmdinfoを確認ください。

5.2. 溶媒を考慮したMM計算(構造最適化)

以下のサンプルはAmberのチュートリアルを元にTSUBAME3環境にあわせて各計算は10分以内に終了するように作成しております。
溶媒を考慮する場合は様々な手法がありますが、本書では、溶質を固定した計算(Step1)、全体計算(Step2)を行います。 計算時間は各手法ともに並列化なしで5分程度となります。その他手法については各自論文をご確認ください。

qrshコマンドで計算ノードにログイン後に以下のコマンドを実行してください。(以下のサンプルではAmber10Update10を利用します)
*ログインノードでの計算実行は行わないでください。

$ module load amber/16up10

サンプルファイルをダウンロードし、スクリプトを実行します。

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step1/* ./
$ sh step1.sh
$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step2/* ./
$ sh step2.sh

step2.shを実行すると2つのPDBファイルが生成されます。 生成されたPDBを端末にダウンロードすることでBIOVIA DiscoveryStudio等の可視化ツールにて確認ができます。
下図はBIOVIA DiscoveryStudioで可視化した溶質固定後の計算結果、固定化を外した全体計算の結果、両者の重ね合わせを示します。

**溶質を固定した計算結果**

**固定化を外した全体計算の結果**

**溶質固定後の計算結果(赤)、固定化を外した全体計算(青)の結果の重ね合わせ(DNAのみ)**

5.3. 溶媒を考慮したMD計算(CPU/GPU)

5.3.1. ヒーティングおよび平衡化

MD計算時にも溶質の拘束計算後(Step3)に拘束を解いて全体計算(Step4)を行います。 また、Step3の20psでヒーティングを行い、Step4の100psで平衡化を行います。
Step3が並列化なしで6分、Step4は2ノード、CPU56並列でsander.MPIでは8分以上かかりますが、並列化効率の高いpmemd.MPIでは3分、cudaによる2ノード8GPU並列(pmemd.cuda.MPI)では2分以内に計算が終了します。
Step4ではqsubコマンドをご利用ください。 なお、下記のサンプル計算を行う場合はstep1,2の計算結果が必要となります。 pmemdは真空条件での計算はできませんので、ご注意ください。

非並列オプション実行時

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step3/* ./
$ sh step3.sh

並列オプション実行時

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step3/* ./
$ sh step3_parallel.sh

STEP4の並列計算(2ノード/CPU56並列利用)

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step4/* ./
$ qsub step4_bacth.sh

STEP4の並列計算(CPU2ノード/8GPU並列利用)

$ cp $AMBERSAMPLE/dna_wat/step4/* ./
$ qsub step4_GPUbacth.sh

5.3.2. 結果ファイルの確認

Molecular Dynamics計算の出力ファイルmdoutファイルの内容を見て、計算結果を確認して下さい。 mdoutの主な内容は、出力された系の温度や圧力、エネルギー、体積などの情報です。 ここでは例としてCPUで計算した場合のstep4の計算結果の一部を表示します。

NSTEP =    40000   TIME(PS) =      80.000  TEMP(K) =   296.73  PRESS =    96.5
 Etot   =    -28367.6754  EKtot   =      5896.0101  EPtot      =    -34263.6855
 BOND   =       148.7758  ANGLE   =       359.7502  DIHED      =       458.8581
 1-4 NB =       167.4830  1-4 EEL =      -380.6307  VDWAALS    =      3886.5010
 EELEC  =    -38904.4229  EHBOND  =         0.0000  RESTRAINT  =         0.0000
 EKCMT  =      2718.6134  VIRIAL  =      2514.8148  VOLUME     =     97839.7312
                                                    Density    =         1.0402
 Ewald error estimate:   0.2648E-03
 ------------------------------------------------------------------------------
      A V E R A G E S   O V E R   40000 S T E P S
 NSTEP =    40000   TIME(PS) =      80.000  TEMP(K) =   297.10  PRESS =  -104.6
 Etot   =    -28396.2451  EKtot   =      5903.2761  EPtot      =    -34299.5212
 BOND   =       154.1835  ANGLE   =       341.9533  DIHED      =       458.8789
 1-4 NB =       168.4548  1-4 EEL =      -360.6335  VDWAALS    =      3954.1168
 EELEC  =    -39016.4751  EHBOND  =         0.0000  RESTRAINT  =         0.0000
 EKCMT  =      2722.3002  VIRIAL  =      2965.6486  VOLUME     =     98706.1131
                                                    Density    =         1.0319
 Ewald error estimate:   0.1054E-03
 ------------------------------------------------------------------------------


      R M S  F L U C T U A T I O N S
 NSTEP =    40000   TIME(PS) =      80.000  TEMP(K) =    19.45  PRESS =   402.2
 Etot   =       724.1996  EKtot   =       386.4596  EPtot      =       352.5658
 BOND   =        11.1978  ANGLE   =        15.7098  DIHED      =        10.5140
 1-4 NB =         4.9522  1-4 EEL =        13.0426  VDWAALS    =       201.2018
 EELEC  =       526.0166  EHBOND  =         0.0000  RESTRAINT  =         0.0000
 EKCMT  =       176.9888  VIRIAL  =       816.2426  VOLUME     =      2935.8983
                                                    Density    =         0.0276
 Ewald error estimate:   0.8083E-04

主なパラメータの内容を以下に示します

mdoutのパラメータ

パラメータ 説明
NSTEPS ステップ数
TIME(PS) MDシミュレーション時間
TEMP(K) 温度
PRESS 圧力
Etot トータルエネルギー(単位はkcal/mol)( =EKtot + Eptot )
EKto 運動エネルギー
EPtot ポテンシャルエネルギー( = BOND + ANGLE + DIHED + 1-4NB + 1-4EEL + VDWAALS + ELEC + EHBOND)
BOND 結合の弾性エネルギー
ANGLE 角度の弾性エネルギー
DIHED 二面角によるエネルギー
1-4 NB 1-4非結合相互作用エネルギー
1-4 EEL 1-4静電エネルギー
VDWAALS 非結合相互作用エネルギー
EELEC 静電エネルギー
EHBOND 水素結合のエネルギー
VOLUME 体積(単位はA3)
Density 密度(単位はg/cm3)

5.3.3. mdout_analyzer.py

5章で計算を行ったサンプルデータを利用してmdout_analyzer.pyの利用方法をご説明します。
サンプルデータを読み込み、起動する場合は下記コマンドを実行ください。

$ mdout_analyzer.py dna_water_min.out

自分が計算したデータを解析したい場合は下記コマンドを実行ください。

$ mdout_analyzer.py <解析したいmdoutファイル>

コマンドを実行すると下記の画面が立ち上がります。

**mdout_analyzer起動画面**

グラフを作成するにはMdoutAnalyzerのSelect Data to Analyzeよりグラフ化したいボタンを選択し、GraphThem!をクリックしてください。 下図は5.1で計算した構造最適化におけるエネルギーの極小化グラフです。

**Step毎のエネルギーの推移**